2026年4月2日、ShopifyはB2B(企業間取引)の基礎機能をBasic・Grow・Advancedの各プランに追加料金なしで開放しました。これまでShopify Plus(月額368,000円〜 2026年4月現在)でしか使えなかったB2B機能が、月額数千円のプランでも使えるようになります。
公式のChangelogをもとに、今回のアップデートの中身、B2B ECの基本、そして日本のEC事業者が実際に何を検討すべきかを整理します。
公式発表の中身:標準プランで何が使えるようになったか
Shopifyの公式Changelogに掲載された内容を整理すると、標準プランで使えるB2B機能は以下のとおりです。
- Companies(法人顧客管理):卸売バイヤーの会社プロフィールを作成し、企業単位で顧客を管理できる
- Company locations / location-level permissions:拠点ごとの権限設定にも対応
- 最大3つのアクティブカタログ:取引先の種類に応じて、最大3パターンの価格表を作れる
- 数量ルール・数量別価格:ロット単位の注文ルールやボリュームディスカウントの設定
- Net payment terms(掛け払い):後払い・掛け払いなどの支払い条件
- セルフサーブオーダー:B2B顧客が自分でログインし、注文・再注文・返品リクエストまで行える
- クレジットカード情報の保存
- Shopify Flowとの連携による自動化
一方、Plus限定で残る機能もあります。
- 無制限のカタログ作成(標準プランは3つまで)
- Companies / Company locationsへの直接カタログ割り当て
- Deposits(前受金)やPartial payments(分割払い)
- Payment requests per fulfillment(納品単位での請求)
- テーマエディタ上でのB2B / D2Cの表示出し分け
要するに、B2Bの基本的な運用は標準プランで始められます。ただし、取引先ごとに細かく価格や商品構成を出し分けたい場合や、決済条件が複雑な場合は、Plusが必要です。
B2B ECの基本をおさらいする
今回のアップデートをきっかけに「うちも卸売をやれるかも」と考える事業者は多いはずです。前提となるB2B ECの基本を確認しておきます。
B2BとD2Cはどう違うのか
EC事業者にとってなじみ深いD2C(Direct to Consumer)は、企業が消費者に直接販売するモデルです。B2B(Business to Business)は企業間の取引で、取引の構造がかなり異なります。
| 項目 | D2C | B2B |
|---|---|---|
| 取引相手 | 一般消費者 | 小売店・代理店・法人 |
| 注文単位 | 1個〜数個 | ロット単位・ケース単位 |
| 価格設定 | 定価(一律) | 取引先ごとの卸価格 |
| 決済方法 | クレジットカード・即時決済 | 掛け払い・請求書払い |
| 購買頻度 | 不定期 | 定期的・継続的 |
| 意思決定 | 個人 | 組織(担当者→承認者) |
B2Bコマースの世界市場は約36兆ドル規模と言われています。D2Cとは文字どおり桁が違います。
Shopifyで卸売をやろうとすると、何が大変だったのか
これまで、ShopifyでB2Bをやるには実質Plusが前提でした。B2B機能を使わずにB2Bをやろうとすると、こういう問題が起きます。
卸売価格をExcelやスプレッドシートで管理して、手動で更新する。注文はメール・電話・FAXで受けて、手作業でシステムに入力する。小売価格が卸バイヤーに見えてしまうミスが起きる。D2Cと卸売で別々のシステムを使うから、在庫も顧客データもバラバラになる。
プラグインやサードパーティアプリで対処する方法もありましたが、つぎはぎの運用になりがちでした。今回のアップデートは、こうした問題の多くをShopifyの標準機能として解決できるようにしたものです。
日本のEC事業者にとっての意味
「とりあえず試す」ができるようになった
一番大きいのは、B2Bを試すためにいきなりPlusにアップグレードしなくてもよくなったことです。
D2CでShopifyストアを運営していて、「小売店から卸売の問い合わせが増えてきた」「知り合いの店舗に卸したい」という事業者は少なくありません。これまではそのためだけにPlusへ移行するか、別のシステムを用意する必要がありました。今後は、既存プランのまま法人顧客管理・卸売価格・掛け払い・セルフサーブ注文を有効化できます。
月額費用の追加なしで卸売の基本的な仕組みを持てるのは、「まず数社で試してみて、うまくいったら拡大する」という段階的なアプローチを取りやすくします。
「B2Bができる」と「B2B運用を作り込める」は別の話
標準プランで使えるのは、あくまで基礎です。
取引先が多く、3つ以上のカタログ(価格表)が要る。前受金や分割払い、納品単位の請求が必要。B2Bの購買体験をD2Cとはっきり分けたストアデザインにしたい。こうした要件が出てくると、標準プランでは足りなくなります。
自社のB2B運用にどの程度の複雑さがあるかを先に整理しておくと、判断がしやすくなります。
B2B導入前に確認しておく4つのこと
B2B機能を有効化する前に、見落としやすい4つのポイントがあります。ここを飛ばすと「設定したのに動かない」という事態になりかねません。
1. マーケットが新バージョンになっているか確認する
Basic・Grow・AdvancedでB2Bカタログ機能を使うには、マーケット(Shopify Markets)が新バージョン(2025年以降に導入された新しいMarkets)になっている必要があります。旧バージョンのMarketsのままだと、B2Bカタログの価格設定が機能しません。
Shopifyの管理画面で「設定 > マーケット」を開き、新しいMarketsに切り替わっているかを確認してから着手してください。ここを見落とすと、「B2B機能を有効にしたのにカタログが設定できない」という状態になります。
2. Customer Accounts(顧客アカウント)を新しく、有効にする必要がある
B2B顧客はログインしないとB2B価格やB2B専用商品を見られません。Customer Accounts(顧客アカウント)機能の有効化が必須で、しかも古い顧客アカウント(ログインページなどがテーマと同じもの)では対応していません。新しい顧客アカウントへの移行が前提です。
D2Cストアで旧顧客アカウントを使っている場合、ここが移行のボトルネックになりやすいです。先に移行計画を立てておくことをおすすめします。
3. D2Cと同じストアで運用するか、B2B専用ストアを分けるか
Shopifyは、B2Bの運用形態を2つ用意しています。
1つ目は「共存型(Blended Store)」で、1つの管理画面と1つのオンラインストアでD2CとB2Bを一緒に運用します。在庫やテーマを共有する形です。2つ目は「専用型(Dedicated Store)」で、B2B専用のストアを別途立ち上げます。
少数の卸先とのシンプルな取引なら共存型で十分ですが、B2B顧客に専用の画面や商品ラインナップを出したければ専用型が向いています。後から切り替えるのは手間がかかるので、ここは最初に決めておくべきです。
4. 割引と配送の挙動にクセがある
共存型ストアでは、自動割引やディスカウントコードはB2Bに対してデフォルトで無効になっています。B2Bでも使いたい場合はShopifyサポートへの有効化依頼が必要です。そして有効化すると、割引はB2BとD2Cの両方に適用されるため、B2Bだけに限定したい場合は顧客セグメントなどで出し分けの制御が必要になります。
配送面でも、ローカルデリバリーやピックアップポイントはB2Bと互換性がないなど、D2Cとは違う制約があります。割引・配送まわりは想定外の挙動が起きやすい部分なので、事前に仕様を確認しておくことをおすすめします。
どんな事業者に向いているか
標準プランで始めやすいケース
すでにD2CのShopifyストアがあり、卸先は数社、価格パターンも2〜3種類で収まる。掛け払いと再注文の基本運用ができれば十分。こういう事業者であれば、標準プランのB2B機能で問題なく始められます。
具体的には、小売店やバイヤーからすでに問い合わせが来ていて、メールや電話での受注を仕組み化したいケース。あるいは「一般小売」「量販店」「代理店」のようにシンプルに区分できる価格体系の事業者です。
Plusを前提にした方がよいケース
取引先ごとに個別の価格表が必要でカタログが4つ以上になる場合、前受金や分割払いなど複雑な決済条件がある場合、B2B専用のストアデザインを作り込みたい場合は、標準プランで無理に始めるより、最初からPlusで設計した方が手戻りが少なくなります。
相性のよい業種
B2BのEC化は、再注文(リオーダー)が発生しやすい商材と相性がよいです。食品・飲料メーカーが飲食店や小売店に定期的に卸すケース、アパレルブランドがセレクトショップにシーズンごとに卸すケース、化粧品メーカーがサロンに業務用商品を販売するケースなどが典型例です。部品や消耗品のように法人からの定期発注がある業種も向いています。
B2Bを始めた後の話:法人顧客との取引を続ける仕組み
B2B機能を導入して終わりではありません。その先にあるのが、法人顧客との継続的な取引関係をどう作るか、という問題です。
B2B顧客はD2Cの消費者と比べてリピート頻度が高く、1回の取引金額も大きいです。その反面、担当者が変わる、購買サイクルが変動する、ロット単位で在庫を追跡する必要があるなど、D2Cにはない管理の手間もあります。
今回のアップデートで顧客アカウントを通じた注文履歴や再注文の導線が標準化されたことで、「誰がいつ何を買ったか」というデータが溜まりやすくなりました。このデータをうまく使えるかどうかで、B2B運用の費用対効果が変わります。
たとえば、一定期間注文のない法人顧客への状況確認。購買サイクルに合わせた発注リマインド。担当者が変わったときの引き継ぎ対応。こうしたコミュニケーション設計は、D2CのCRM運用と共通する部分が多くあります。
StoreCRMでは、顧客の購買データに基づいたセグメント作成、休眠顧客への自動メール配信、ステップメールによる段階的なコミュニケーション、Shopify Flowと連携した自動化といった仕組みが利用できます。B2Bの法人顧客管理にも、こうしたCRMの考え方を取り入れることで、取引の継続率や顧客単価の向上が期待できます。
まとめ
今回のアップデートは、「B2B機能が安くなった」という話ではありません。B2B導入の入口が標準プランまで広がり、卸売の基礎運用をShopifyの標準機能で組めるようになったという変化です。
ただし、カタログの自由度、決済条件の柔軟性、ストアデザインの作り込みでは、Plusの優位性は明確に残っています。
まずは自社の卸売業務を棚卸しするところから始めてみてください。「どの取引先に」「どんな価格で」「どんな条件で」販売しているか。それが整理できれば、標準プランで十分なのか、Plusが必要なのかの判断がつきます。
